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憧憬は繰り返し、眼の奥を手探りで

あくまで間接的に、わからないほど遠回しに、「あなたは私の心残りの大きな一つである」のだと言った。その人間は、「私はそんなものになれる存在ではないよ」と返した。「どうして私はあなたを信仰に近いほど、慕ってしまうのか」と一人ごちる。それはいう。「私はそれらしいことを言っているだけだよ」違う。

本当に言いたいことがはっきりと言えないまま、話の内容と時間は過ぎていく。いかんせん、元来の性格としては無口な双方なので、完全な無言の時を過ごすことも多い。しかし、以前は「気まずいな」としか思えなかったその時間も、今となっては当たり前のものとして、お互い了解を持っているという感じはある。その時間はお互い思案を巡らせているだけなのだ。喋りながら考える性質ではないのだ。でも、どうしたって、本質的なことを言いたいのに、こわくて言えない時は、焦がれ、悩み、その了解すら忘れて疑心暗鬼になってしまう。

私は大きな謎に対するために眼の奥を探す。とても色白なのに、わたしより黒目の濃いその眼の奥はなかなか語りかけてはくれない。反対に、私の眼はわりかし大きいし、色もチョコレートくらいには明るいので、そのときの感情や、意志が無意識に悟られやすい。損なことだ。しかし、少ない情報から得た、その心残りが私を嫌ってはいないこと、それだけはわかる。

視界だってそうとうなものだけれど、音は不思議だ。今は一人、モーター音の中、思い出を一つだってこぼさないように文字を選んでいるだけだけれど、さっきまでは、なんだったんだ、頭の中がぐちゃぐちゃする。情報量を低くするために、眼が悪いけれど矯正しないというあほらしいことをしているのに、まだ多すぎる。音の海。それも人を殺せるくらいの優しい海だ。

桜は暖かいところから順々に咲き始める。東南口の二本の木も既にそうだった。この季節まで生き残ってしまったのだなあと思う。死にとり憑かれた人間には刺激が強い事実だった。生きる理由のすぐ隣で死を想い、また枷をもてあそぶ作業に戻る。